転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 昨日、石を投げられたときにできた頬の傷に、シエラが優しくなぞるように触れた。

「痛かったよね。私のせいで、ごめんね」
「いや、これくらいどうってことない」
「……フィデルにとって〝どうってことないこと〟が、今までどれだけ私を助けてくれたか、フィデルは知ってる?」

俺の冷えた体を温めるように、シエラの手のぬくもりが全身に伝わっていく。

「俺は、お前を助けてなんていない。助けられたのは俺のほうだ。今だって……」
「私から言わせてみれば、助けられたのはいつも私なんだよ。だって私、フィデルに会えなかったら、なんにもできなかった。今だって、フィデルのことを思って頑張ったの。フィデルがいるから、泣かないでいられたの。だから……フィデルのせいで、泣かせないでよ。馬鹿」

 シエラの瞳から、涙が溢れていた。俺の服の上に、シエラの涙がぽたりと落ちる。

「私は、フィデルがなんの力もなくたって、フィデルにそばにいてほしい」
「……シエラ」
「だから、一緒にここを出よう。ふたりで事件を解決しよう。それで自由を手に入れたら、なにも気にしないで、またゆっくり街を見て回ろうよ。ほかにも、できなかったことをひとつずつ、一緒に叶えていこう?」

 涙を流しながら、シエラはいつものように笑顔を見せた。

 シエラの太陽のような笑顔は、いつからか俺の心にあった氷を溶かしていくみたいに、俺の感情を揺さぶった。

 ――俺は、期待しないように生きてきた。何事にも。最初から、なにも求めなければ、失ったときの悲しみが軽くなるから。そうすることで、自分を守っていたんだ。
< 104 / 147 >

この作品をシェア

pagetop