転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
遠い記憶だけど、はっきり覚えている。最後に王妃様を見たときのことを。
夜会の最中、エリオットと違い誰とも馴染めずひとりでいたフィデルの手をずっと握っていた王妃様。フィデルに向ける優しい微笑みと、慈愛に満ちた眼差し。
幼い私が見てもわかるほど、王妃様は心からフィデルのことを愛していた。
大切な宝物だったフィデルが、自分の死のせいで苦しむことなど、王妃様は絶対に望んでいない。
――もう、フィデルが苦しむ必要はない。
そう思いフィデルを見ると、私の予想とは全然違う表情をしているフィデルがいた。
しっかりと前を向き、手の震えも止まっている。そして、コディの目の前まで歩み寄ると、口を開いた。
「だからこれ以上、後悔する気はない。責任をもって、俺はお前を助ける。お前は……俺の予知能力の、被害者だ」
なんの迷いもない言葉。一瞬の揺らぎもない瞳。今ここにいるフィデルは、ずっと別邸に閉じこもっていたままのフィデルじゃない。
フィデルは……初めて会ったときよりずっと、強くなった。
囚われ続けた過去から逃げることをやめ、それでいて、前に進もうという意思を感じる。