転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
ドリスさんはゆっくり私に近づく。恐る恐る顔を上げドリスさんを見れば、眉間に皺を寄せ、それはもう最上級に機嫌の悪い顔をしていた。
「ほんっとうにその通りよ! 大迷惑! なに婚約破棄とかされちゃってんのよ! ボケナス!」
ボ……ボケナス。久しぶりに言われた。王妃教育を受けているときは、一日に何度この言葉を言われたことか。
「も、申し訳ございませんっ! ドリスさんが怒るのは当然だと思います。ドリスさんの気が済むまで、私に怒りをぶつけてもらって結構ですから!」
「はぁ? なに言ってんのよ。あたしが今こんなに機嫌が悪い原因は、あんたじゃないわ」
「……へっ?」
「あの新しい婚約者よ! エリオットったら、いきなり〝今日からこの女性に王妃教育をしていただきたい〟とか言ってちんちくりんな女を連れてきたと思えば、まぁその女のやる気のないこと!」
――ロレッタのことか。確かに、お金持ちで昔から人に甘やかされて育ってきたロレッタが、ドリスさんの王妃教育を耐えられるとは思えない。
「エリオットも〝あまり厳しくしてやるな〟とか言っちゃって。思い出すだけでも腹立たしい! あの女は見た目がかわいいだけ。なんにもできない、ただの無能よ!」
よっぽど腹が立っているのか、ドリスさんはふたりの文句を言い終わると若干息が上がっていた。エリオット、私のときは一度も庇ってくれたことなかったくせに。
「シエラ。あんな女に負けるあんたもあんたよ」
ドリスさんが、キッと私を睨んでそう言った。