転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
「安心して。お母様。彼は全身黒いだけで、全然怪しい人ではないから」
「なっ!? 俺は怪しいやつだと思われていたのか!?」
「えぇ!? 逆に自分で気づいてなかったの!? 絶対通りすがりの人にも思われてたわよ!?」
「そうだったのか……。いつの間に……」
横でショックを受けているフィデルを見て、おもわずプッと笑ってしまう。
「えーっと……?」
お母様は不思議爽に、私とフィデルのやり取りを眺めていた。
「あっ! ごめんごめん。この人はフィデル。お母様も名前を聞けばわかるでしょ?」
「フィデルって、まさか……。だ、第二王子の……」
「そう。エリオットの弟で、この国の第二王子。フィデル・バラクロフ。フィデル、ここまできたらもうフードは脱いで大丈夫なんじゃない?」
私に言われ、フィデルは暑そうなフードを脱ぐ。すると、藍色の髪をふわりと揺らしながら、フィデルの素顔がお母様の前に晒された。
「どうも。フィデルです」
なんとも簡潔な自己紹介が、これまたフィデルらしい。
お母様は突然現れた第二王子を前にして、びっくりして固まっている。
「……シ、シエラ? なにがなんだかわからないのだけど」
「うんうん。そうだよね。すぐ順を追って説明するから。……ほら、フィデルも上がって」
私とフィデルは家の中に入り、リビングに並んで座った。お父様は朝早くから仕事に出かけ、家にはいないらしい。
お母様は緊張した様子で、フィデルと私の前にお茶とお菓子を置くと、私の向かい側に腰かけた。
「わ~! これ、お母様が作ったアップルパイだ! お城にいる間、いろんなスイーツを食べたけど、このアップルパイが恋しくて仕方なかったの!」
目の前に置かれた、お母様お手製のアップルパイは、幼い頃からの私の好物だ。
「喜んでくれてよかったわ。シエラがいつ帰ってきてもすぐ食べられるように、作って待ってたの。……あ、あの、フィデル王子も、嫌いでなければどうぞ召し上がってください」
「ああ」
短い返事をして、フィデルはアップルパイをひとくち食べた。