転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
ざわめきのあと、嫌でも耳に入ってくるひそひそ話。もうちょっと静かに言えないのか、わざと聞こえるように言っているのか。
図太い神経をしている私は、周りの声を無視して、ひとりでただ〝そのとき〟がくるのを待った。
「……おや? シエラ、まさか君なのか?」
大広間に、ロレッタを連れたエリオットが現れる。エリオットは私を見つけるなり、ぎょっとした顔で話しかけてきた。
「やだ。あなた、夜会に参加してたの? まだエリオット様に未練タラタラなんですのね。……それに、その格好はなに? カラスのコスプレかしら?」
エリオットの隣で勝ち誇った顔をして、笑いながら言うロレッタ。エリオットが選んだベビーピンクのドレスを着ていて、おもわずこちらも笑いそうになってしまった。エリオットも、ロレッタが選んだ白地に金の刺繍と肩章の入った衣装を着ている。
「ロレッタ。彼女は今まで僕のおかげで上等な衣服を身に着けることができていただけなんだ。きっと夜会へ着てくるドレスがなく、ああやってコートを羽織り隠しているんだろう。察してあげるのも優しさだよ」
「あら、そうでしたのね。ごめんなさいシエラ、私ってば気が遣えなくて」
ふたりが笑いだすと同時に、周りで私たちの様子を伺っていた人たちも一緒に笑いだした。
その中には、学園時代、笑顔で話しかけてくれた同級生もいた。あの頃と違い、今は私を馬鹿にして笑っている。エリオットの婚約者でなくなった私には、優しくする必要がないからだろう。
とんでもなく不愉快な気分だが、私は黙ってひたすら耐えた。
しばらく経つと、フロアに音楽が流れ始める。ダンスタイムが始まるようだ。みんな、誰と踊るかそわそわとし始める。中でもやはり、一番の注目の的はエリオットだった。
エリオットが最初に誰かを指名して、中央で踊るのがいつもの流れだ。今までは、婚約者である私が躍っていたが、今回は誰を選ぶのかと周りも固唾を呑んでいる状態。
エリオットは、まっすぐこちらに歩いてきた。私は予想外な行動に戸惑う。