転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
「……黒髪、キノコ、眼鏡」
「? どうしたんだ」
「ま、待って! 黒髪でキノコで大きな丸眼鏡かけた男が、ロレッタと話してる!」
「なっ! それは、俺が見たやつと同一人物じゃないのか?」

 絶対にそうだ。確かにマスコット感も強かった。驚きのあまり瞬きをしてしまった私に向かって、フィデルは言う。

「早く続きを見て、もう一度確認しろ!」
「わかってるって! ……あぁ! また瞬きしちゃった! もう、〝千里眼〟を使うと目が乾いてしょうがないわ!」
「いいから早くしろ。ちゃんと見ることができたら、目薬を持ってきてやる」

 いや、今欲しいんですけど!? フィデルの意地悪! ドS王子!

 フィデルへの悪口をなんとか心の中だけに留め、私は目の乾きに耐えながら必死にロレッタを見る。
 ロレッタは幸いまだキノコ眼鏡くんと話している。キノコ眼鏡くんの声が小さすぎて、なにを言っているのかがはっきり聞こえない。

『いい加減しつこいわね! これ以上まだその話をするなら、もう私に近寄らないで!』

 ロレッタのキーンとした甲高い怒鳴り声が響いた。ロレッタは話すのをやめて、どこかへ去って行く。方向的に、城へ戻る感じだろう。
 しょんぼりしたキノコ眼鏡くんはひとり取り残され、その場に立ち尽くしていた。ロレッタは一度も振り返ることはなかった。

「……どうだった? 見えたのか?」
「うん。事情はわからないけど、ロレッタがすごい剣幕でキノコ眼鏡くんに怒ってた。あのふたり、いったいどういう関係……?」
「本人に聞きに行くのが早そうだな。あの女が、俺たちに協力してくれるかどうかはわからないが」

 フィデルは話しながら棚をゴソゴソと漁ると、目薬を取り出して私のほうへ投げた。
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