転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
「……提案?」
「今日はこの近くにある大きな建物を回ってみましょうよ。そしたら、フィデルが予知で見たものと一致する建物が見つかるかもでしょ?」
「俺は建物の中と、爆発した一部分しか見えてないんだ。建物の全体像を見ても、ピンとくるかどうか……」
「だったら建物の中に入ればわかるかもしれないじゃない。コディの動きは、私がチェックしておくから安心して」

 私の力も完璧でないから、四六時中ずっと見ることはできないけど。
「で、そのついでに、ふたりで街を見て回りましょう。ほら、フィデル言ってたでしょ? 十年ぶりに外に出た日に、『街はずいぶん変わった、知らない国に来たみたいだ』って」
「……言ったかもしれないな」
「せっかく外に出られたのに、今の街の風景を全然見てないなんて、もったいないわ」

 最近、頭を悩まされることばかりで、ろくに息抜きもできてなかったと思い、ここでひとつそんな提案をしてみた。
 今までと大きく環境が変わってまだたった数日。特にフィデルは私なんかよりずっと。知らないうちに、ストレスも溜まっている気がする。毎日目まぐるしく、発散する暇もないほどだ。

 コディが店内にいる間は安全。なので、今は少し、肩の力を抜いてもいいんじゃないかな。

「こんなときに、そんなことをしている時間があるのか?」
「こんなときだからこそよ! それに、あくまでも調査のついでよ。つ・い・で! ねっ?」

 人差し指でフィデルの胸の真ん中あたりを軽くつつき、首を傾げへらりと笑ってみせると、フィデルは黙って頷いた。承諾してくれたようだ。

「俺も、実はゆっくり街を見る時間がほしいと思っていたところだ。……ありがとう。お前、俺のことを気にしてくれたんだろ?」

 フィデルはフッと笑い、目を細める。――不覚にも、ドキッとした。

「ほら、行くぞ」
「えっ……! う、うん」

 僅かな時間だけど、ふと自分に向けられたフィデルの優しい表情を見て、私は一時停止したようにその場で固まってしまっていた。フィデルに呼ばれ、私ははっとしてフィデルの背中を追いかける。
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