転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 大きな建物をいくつか回りながら、フィデルが外に出なかった十年で変わった街並みを、肩を並べて一緒に歩いた。

 たまに気になったお店に寄ってみたり、出店の雑貨を見てみたり。フィデルは新しいものを見つけるたびに、『これはなんだ!?』と興味津々に私に話しかけてくる。

 ――調査なのに、なんだろう。この感じ。デートしてるみたい。……いけない。こんなのんきなこと考えてたら、私もエリオットとロレッタと同じじゃない。

 フィデルとの楽しい時間が、私に現実を忘れさせる。頭をぶんぶんと左右に振って、自分に気合を入れなおした。コディを見張ることだけは、絶対忘れないようにしなければ。

 その後も建物を回ったが、結局見たなかで事件現場になる場所を特定することはできなかった。というか、大きい建物自体の数が多すぎて、回るのも一苦労だ。

「そろそろ建物自体が閉まっちゃいそうな時間ね……」

 空がオレンジ色になってきた頃、家に帰る子供たちの声が街のあちこちから聞こえ始める。
「ね、あれって――例のふたりじゃない?」

 元気に道を走り行く子供の後ろから、母親と思わしき女性三人組が歩いてきた。そして、通りすがりの私たちの姿を見て顔をしかめると、噂話を始めた。

「フィデル王子よね? どうして外に出て来たのかしら。王妃様を殺した殺人者でしょ?」
「夜会で事件が起きるなんて言って、みんなの恐怖心を煽って、迷惑な話よね」
「この国の王族に異能者が生まれたことなんて今まで一度もなかったのに……やっぱり普通じゃないわよ」
「隣の子は、エリオット王子の元婚約者のシエラ嬢かしら。噂によると、あの子がフィデル王子をそそのかしたみたいだけど……」

 その後も、私たちの悪口ともいえる噂話は続いていくのだろうけど、私の耳に入って来たのはそこまでだった。
 あまり広くないような道で、近い距離にいるのだから、いくら小さな声で話してもある程度は聞こうとせずとも聞こえてしまう。
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