転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 私は小走りしてフィデルの正面に立ち、後ろ向きで歩く。フィデルの顔を見上げながら、今までちゃんと言えてなかった言葉を、改めてフィデルに告げる。

「私とコンビを組んでくれて、助けてくれて、本当にありがとう!」

 そう言って笑顔を見せると、フィデルの足が止まった。私も足を止めると、フィデルは無言で私を見つめる。

「ど、どうかした? 私の顔、なにかついてる?」
「いや……お前って、笑うとそんなにかわいかったか?」

 穴が開きそうなほど見つめられ、恥ずかしくなった私に、フィデルはさらなる爆弾を落としてきた。

「な、なな、なに言ってるの、フィデルってば」

 ――今、『かわいい』って言った? フィデルが、私に!?

 驚いて固まるわたしを見て、フィデルも自分が不意に放った言葉の意味をようやく理解したのか、みるみると顔が赤くなっていく。

「ま、待て。今のはなかったことにしてくれ」

 赤くなったのを隠すように、手で顔を覆いながら、フィデルは言った。
 〝なかったことに〟なんて、できるわけない。私は何故かムキになり、フィデルに言い返す。

「それってやっぱりかわいくないってこと? あと、今の言い方だと笑ってないときはかわいくないの?」
「そうは言ってないだろ! なんでそうなるんだ!」

 すっかり人通りもなくなり静かになった道に、私とフィデルの言い合いの声と、オレンジの空を飛び交うカラスの鳴き声だけが響いた。

「ふーんだっ! どうせ、フィデルだって、ロレッタみたいなかわいい小悪魔っぽい見た目のほうが好きなんでしょ」

 背を向けて、後ろで手を組み、いじけながら転がってもないのに石ころを蹴る動作をしながら言うと、フィデルはため息をついた。

「そんなの、比べるまでもないだろう」

 ……はっきり言いすぎじゃ? そりゃあ確かに、見た目でロレッタに敵うところなんて、自分でもなかなか見つけられないけど――。

「お前のほうが……かわいいに決まってる」

 段々声が小さくなったが、今度ははっきりと聞こえた。フィデルが私を『かわいい』って言ったのを。
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