転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 振り返ってフィデルを見ると、フィデルはすぐに顔を逸らす。お互い同じくらい赤面しながら、次になにを言えばいいかを考えていた。

「どっ、どうしたの。フィデルが私にそんなこと言うなんて。今日、なにか変なものでも食べた?」
「あ、ああ。きっとそうだ。こんなの、俺らしくない」

 フィデルは歩き出し、あっという間に私を追い越していく。

「待って――あっ!」

 照れくさいからか、ずんずんとひとりで先を歩いていくフィデル。慌てて追いかけると、なにもないところで躓いてしまい、私はそのままこけそうになり目を瞑った。

「……あ、あれ?」

 地面についているはずの私の体は、フィデルの細い腕に抱きとめられていた。
 フィデルの鼓動の音が聞こえる。……早い。つられて、自分の鼓動も早くなる。

「ご、ごめんねフィデル。ありがとう」
「本当に、危なっかしいな。お前は」

 また、フィデルがフッと笑った。あ、あれ? フィデルって、こんなにかっこよかった?
 最初に見たときからずっと、かっこいいのはわかっていた。でも、そのときよりずっと、フィデルがきらめいて見える。
 ずいぶん、雰囲気も柔らかくなったし、私にも対して、徐々に心を開いてくれているのが伝わ
る。
 フィデルに抱きとめられたまま、私は自然と上目遣いでフィデルを見つめた。
 視線がぶつかる。フィデルの綺麗なグレーの瞳に、吸い込まれそうになる。

「火事だ! 火事が起きたぞー!」
 そのとき、急にひとりの男性が叫びながら走り去って行った。街の人に、どこかで火事が起きたことを伝えて回ってるようだ。

「……火事?」
 私とフィデルは体を離し、さっきまで確かにあった甘い空気は、一瞬にして不穏なものへと変わる。
 すぐに力を使ってコディを見る。店番をしているコディの姿はなく、そこには燃えている建物をただただ見つめているコディが見えた。

「フィデル! コディが火事の起きている現場へと移動してるわ!」
「……なんだと?」
「早く行かないと!」

 私たちは、急いで事件現場へと向かった――。
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