転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 どうすればいい? どうすれば、フィデルを助けられる?
 実は、私はエリオットが部屋に来る前に一度だけ力を使っていた。そのとき見ていたのだ。フィデルが地下牢に入れられ、エリオットに鍵をかけられていたところを。

 そして――その鍵のスペアキーと思われるものが、エリオットがさっき取り出したのと反対側のポケットに入れられたところも。

 揺れるロングジャケットの、左側のポケットを見つめる。盗むならもう、チャンスは今しかない。

 私はエリオットのもとへ走り出した。腕を引っ張り、こちらを向かせ、思い切り抱き着く。

「っ!? シエラ?」

 動揺するエリオット。さらに強く抱きしめると、背伸びをしてエリオットに顔を近づける。

「……本当に、これからは私だけを見てくださいますか?」

 愛しい人に囁くように、私は言う。

「私だけを見て。エリオット様」

 するりとエリオットの頬を撫で、甘ったるい声を出す。エリオットは口角を上げ、頬を撫でる私の手を握った。

「……悪くない。やはり、強がっていただけのようだな。君は僕を選ぶと思っていた。シエラ、実は夜会のときのドレス姿を見て思ったが……君はいい女になったな」

 エリオットも吐息まじりにそう言うと、顔を近づけてきた。唇が触れ合う直前で、私は顔を背ける。

「ご、ごめんなさい。――婚約中に一度もしなかったことをいきなり迫られて、まだ心の準備ができていないのです」
「シエラは本当にうぶだな。そこが、ロレッタと違った魅力で、僕をそそるものがあるよ」
「そそるなんて、そんな……」

 キスを断ったものの、気を悪くはしてないようで安心する。恥ずかしい、というように、私は両手で顔を隠した。実際の顔は、完全に無表情なのだけど。それをエリオットが知ることはない。
< 95 / 147 >

この作品をシェア

pagetop