個人的に理想のヒロイン
漫画なんかによくある感じの出会い
ジャージ登校などしたせいか。
“僕”は今、痴漢にあっている。
僕の名前は 東雲 春綺。
女顔と低身長がコンプレックス。
十中八九、女に間違えられる。
ナンパをされては、「男です」と言う度に互いに気まずくなるし、158cmという女子並みの身長のせいで、中学生に間違えられることもある。
いや、今どうだっていい、そんなこと。
おじさんの手が、僕の身体に触れる。
男が痴漢被害とかわもはや笑い話だよ(泣)。
「おい、オッサン」
背後から、低く押し殺した、涼しげな声。
振り向くと、同じ高校のジャージを着た人物が居た。
ーー男?女?身長は高い。
男としても、…女にしては高すぎ。
「朝っぱらから気持ちわるーいもの見せられて、すっごく不愉快なんですけど。
次の駅で降りるか、今ここでその手を折られるの、どっちがいい?ちなみに私は断然後者ーー」
さらりと物騒なことを。僕は苦笑する。
まあ、脅しとしては完璧だと思いますよ。
おじさんはそそくさと次の駅で降りた。
「やあやあ、君 大丈夫だった?」
にこにこと笑い、高身長の人物が僕に声をかけてきた。
「助かりました。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる僕を、じっと見つめてくる。
「なんだ…、男子か」
がらりと声色が変わった。
僕は反射的に頭を上げる。
(あのー、やっぱり女だと思ってたんですね、ていうかどこで男って分かったんですか。)
「君、知ってる。ウチの高校で、女顔で有名な子でしょ? 東雲………は、はるこちゃん?だっけ」
おやまあ、随分と分かりやすいボケだこと。
「春綺です」
一応ツッコむのが礼儀かな。
「…あなた、は?」
おそるおそる名前を尋ねる。
目の前の人物は、爽やかなーー中性的な笑みを浮かべた。
あ~…僕が理想とする顔と身長だぁ。
「私は天樹 澪。君、1年でしょ?私は2年」
「『私』って…」
まあ、そんな展開も一応想像していたけど。
「女性ですか?」
言ってから、僕はやっちまった、と思った。
「女性ですか?」って、結構…、いや、かなり失礼なことを…。
「ふーん……」
ああほら、地雷踏んだ。
天樹先輩は不機嫌そうだ。
「どこをどう見たって女でしょ?失礼な子だねぇ」
くつくつと、笑う天樹先輩。笑みが……黒い。
いや、というかどこをどう見たって……男…。
「ま、間違えられるの、もう慣れたけど」
笑顔から黒さが消えた。
…あ、助かった。
「まー、こうして会えたのも何かの縁だ。性別間違えられた同士、仲良くしましょうねー?」
いや、助かってない。
ヤバい人を怒らせてしまった。
「あ…、は、はい!」
焦っていたせいか、コクコクと頷いていた。
ふふっ、と天樹先輩が笑う。
「…何ですか、天樹先輩」
「澪でいいよ。ーーいや、なに。珍しいこともあるもんだな~、と思ってさ」
珍しいこと?
首を傾げる僕に、ぐいっと天樹先輩…、いや、み、澪…先輩が近づいてきた。
睫毛長いな~。
呑気にも、そんなことを考える。
「ふふっ。男が痴漢被害受けたのと、女子に対して『女ですか』な~んて生意気な口を利いてきた男子、珍しいでしょ?」
「あっ…!」
この人、根に持ってる!
しかも、的確に弱味まで握ってくるし。
おっかねぇ…。