花風
男性は柔らかい笑みを浮かべて頷き、ファイルを静かに閉じて言う。
「では、決まりじゃの、お茶でも飲んで待ってなさい、直ぐに契約書を用意するからの」
皺の目立つ手から差し出された湯呑み、それを手に覗くと桜の花が浮かんでいる。
静かに含んだ口内に広がっていく香り、微かに穏やかな風が吹いた気がした。
そんな穏やかな風を残した3日後。
ようやく引越しの片付けも済んだ正午過ぎ、まだ見ぬ部屋の住人を他所にキッチンで暢気に紅茶を啜っていた。
ふと見渡した色気の無いリビングは整理整頓されいて住人の几帳面さが伺え、それはトイレやバスルームを見ても一緒だった。
自分に与えられた部屋はリビングから見て右、そろそろ部屋へ戻ろうかと思った時。
不意に玄関の鍵を開ける音がし、静かな足音が此方へ向かうのが聞こえ、慌てて取り繕って頭を下げる。
「初めまして、こんにちは!一昨日から住む事になりました緒川里乃と言います、これから宜しくお願いします」
矢継ぎ早に言ったせいか相手は立ち止まったまま、そこに見えた足元に若干の違和感を覚えて顔を上げた。
「嘘だろ……女とか聞いてないんだけど……」
「では、決まりじゃの、お茶でも飲んで待ってなさい、直ぐに契約書を用意するからの」
皺の目立つ手から差し出された湯呑み、それを手に覗くと桜の花が浮かんでいる。
静かに含んだ口内に広がっていく香り、微かに穏やかな風が吹いた気がした。
そんな穏やかな風を残した3日後。
ようやく引越しの片付けも済んだ正午過ぎ、まだ見ぬ部屋の住人を他所にキッチンで暢気に紅茶を啜っていた。
ふと見渡した色気の無いリビングは整理整頓されいて住人の几帳面さが伺え、それはトイレやバスルームを見ても一緒だった。
自分に与えられた部屋はリビングから見て右、そろそろ部屋へ戻ろうかと思った時。
不意に玄関の鍵を開ける音がし、静かな足音が此方へ向かうのが聞こえ、慌てて取り繕って頭を下げる。
「初めまして、こんにちは!一昨日から住む事になりました緒川里乃と言います、これから宜しくお願いします」
矢継ぎ早に言ったせいか相手は立ち止まったまま、そこに見えた足元に若干の違和感を覚えて顔を上げた。
「嘘だろ……女とか聞いてないんだけど……」