花風
先程までの喧騒が嘘に思えるほど静かな新幹線の車内。
狭い指定席に腰を掛けて大きな溜息を吐く。
通路を進んで行く車内販売の女性の穏やかな声、時折流れる無機質なアナウンス。
そして発車を知らせるベルの音。

京都へ足を運んだ身体を深く預けながら思い出していた。

年に一度のコンテスト、今回はかなり自信があった。

だがしかし、結果は僅かな大差。
参加人数が約150名の中で8位と良い成績は出たが、表彰されるのは上位6名と言う2人分の山を越えられず、それが近いようで遠い道程に見えて深く落ち込む。

働いてる東京の店でも指名はトップで8年目の29歳を迎え、まだコンテストは残されているが自分は次で参加資格を無くしてしまう。

今回、表彰台に登れたらステータスと言うことで職場から近い青山に転居をと考えていた。

現在の住居は世田谷で駅から距離も近いし交通の弁も悪くは無い。
なにより2LDKで家賃は相場の半分と言う所が気に入っている。


特に不満はないが、強いて上げるならルームシェアの物件だと言う事。
住み始めてちょうど1年が経つが、誰かが入ってくる気配はない。

もう少し住んでもいいかなと思い、京都に行く前に契約も更新済み。

願わくばこのまま誰も入って来ないでほしいと思った。

ふと眺めた外は暗く、自分の顔が窓ガラスに写る。
少し髭が伸びたなと顎に触れ、それと同時に瞼が重くなってきた。

眼鏡を外してシャツの首元に掛け、そのまま腕を組んで目を閉じる。 



『次は東京…』


間もなく到着することを知らせるアナウンスで飛び起きて急いで支度をした。

荷物を持って向かった先のドアは開いており、少し急ぎ気味に降りて行く。

そこからタクシーに乗り込み、自宅へ向かう。

運転手が話し掛けて来るが、煩わしくて適当に返事をして降りた。
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