不器用オオカミとひみつの同居生活。


「あら、そんなに離れてないのね。
じゃあ子供好きとか?」


たしかに小さい子は見ていて可愛いと思う。

嫌いなわけでもない。


だけど特別好きかって言われたら……

そういうわけでもない。


ただ子供が困っていたり泣いていたりするのを見ると心がざわついて、考えるより先に声をかけてしまうことがよくあった。



そのとき、サチちゃんが「あのね」とうれしそうに顔を近づけてきた。


その手には銀色のツルと……

反対の手にはマジックペンが持たれている。



「さっちゃんね、じぶんのおなまえかんじでかけるんだよ。ほら!」

「あっ!こ、こらっサチ!」


マジックペンで、私の手に名前を書きだした上機嫌のサチちゃん。


お母さんはあわてて止めようとしたけど、私は大丈夫ですと笑った。



「サチちゃんはすごいね。いまいくつなの?」

「ごさい!えへへ、かけたよ」



手の甲にでかでかと書かれた『幸愛』の文字。


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