不器用オオカミとひみつの同居生活。
廊下のすこし先にいたその人の顔は、陰っていてはっきり見えなかったけど、すぐに誰なのかわかった。
「こっちゃん!」
笑顔のこっちゃんに、スマホを手に持ったまま駆け寄る。
「まだ残ってたんだね。こっちゃんも委員会だったの?」
「違う違う。カヤちゃんを待ってたんだよ」
「私を?」
今日、何か約束してた覚えもないし……なんだろう。
首をかしげる私に、こっちゃんがすっと指さしたのは私の膝だった。
「ねぇカヤちゃん。その傷、それだけですんで本当によかったね」
「え?う、うん。本当に死ぬかと思って……」
「──……よか…たのに、」
「え?ごめん、うまく聞き取れな──」
こっちゃんが一歩前に踏み出した。
窓から差し込む夕日が、紅く照らしたその顔は。
「……あたし、別に死んでもいいやって思って押したのに」
夕日よりもずっと、朱くゆがんでいた。