不器用オオカミとひみつの同居生活。
***
「ごめんなさい」
こっちゃんと泣き合った、その日の夜。
家に帰ると花平くんはいつもどおりで。
でも、その頬はすこし赤くなっていて。
すぐに切り出すことができなくて、寝る前まで引き延ばしてしまった。
それまでの会話はゼロに等しい……いや、それは前からだけど。
とつぜん謝った私に、背を向けていた花平くんが振り返った。
何を考えているのか、じっと見つめられる。
「なにが?」
「なにがって……」
覚えてないわけがない。
絶対記憶にあるはずなのに、花平くんは知らないふりをする。
「恩を仇で返しちゃったじゃないですか」
「まず恩売ってねーし。覚えてねー」
「本当に言ってます?」
記憶が飛ぶほどつよく叩いちゃったのかな。
近づいて、左の頬に触れてみる。
腫れてはないみたいだけど、すこし心配になってきた。
「お前のほうがやばいだろ」
「え?」
「これ、両方赤くなってっけど」
あいかわらず冷たい手が右頬にそえられる。
ひんやりとした冷たさが、熱をおびてる頬に心地よかった。