不器用オオカミとひみつの同居生活。
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家に帰るとすぐキッチンへ向かった。
お湯を沸かして、2人分のコーヒーを淹れる。
「何か入れます?」
「そのままでいい」
だろうと思った。
花平くんはブラックしか飲まない。
たいして私はミルクや砂糖を混ぜて飲むのが好きだった。
自分の分にだけミルクを注いだあと、2つのカップをテーブルに置いた。
「お待たせしました」
花平くんはすぐには手をつけなかった。
私も両手を机の下に隠したまま、立ち昇る湯気を見ていた。
淹れたあとに言うのもなんだけど、何かを飲む気分じゃなくて。
「私と弟、あまり顔似てませんよね」
というか私だけ、似てないんだ。
お父さんとお母さんの血を濃く受け継いだのは、私じゃなくて陽向だった。
顔も、愛情も、全部持っていったのは弟のほうだった。
それまでは気にならなかったことでも、
一瞬でコンプレックスになるということ。
「もう知ってるかもしれませんが……
私の名前は憂いの憂。
茅森 憂です」
幼い私が学んだのは、
与えられたのは、
それだけだった。