不器用オオカミとひみつの同居生活。










「生まれたのが私だって…女だってわかったときの感情をそのままつけたんだって、そう言われました」


幼かった私は“憂鬱”を辞書でさがして、その意味を知った。


心が折れる音がした。


……いや、何の音もしない。無音だった。




「中学を卒業して、家を出ることを決心したんです」


あの日以来、前にも増して家族とは話さなくなり。


『私、1人で暮らすから』

『そう』


家を出ることを伝えたときも、いつかと同じ言葉を返されただけだった。


それでもアパートは両親に決められた、すこし良いところで。


世間体を気にしていることはすぐにわかった。



「人はひとりで生きていけない、なんて、綺麗事だと思ってました」


生きていける。私はひとりでも生きていける。


……そう、思っていた。



「あの日。私が花平くんに話しかけたのは、たぶん人肌が恋しかったんです」


花平くんが何も言わないことを良いことに、次々と心の内を吐露する。



「誰かと他愛のない話をしたかった、一緒にご飯を食べたかった。ここにいてもひとり、実家に帰ってもひとり。……独りでいるのはもう嫌だった。」


『うちに来ますか?』


誘ったのも、自分のためだったんだ。


一度そう考えれば、どんどん思い込んでいく。



そうとしか思えなくなった。


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