不器用オオカミとひみつの同居生活。




「あ、お兄さん。今日は姉ちゃん一緒じゃないんだ」

「……弟」

「僕は陽向だよ。姉ちゃんと違って立派な名前があるからさ」


嫌みを物ともせず言ってのける目の前の顔は、たしかに茅森とは似ても似つかなかった。

あいつはこんなふうに胡散臭い顔はしない。


それでもどことなくパーツが似ており、姉弟というのは本当なのだろう。



俺の顔を見て、弟が肩をすくめた。



「やだなぁ、冗談だよ。もしかしてお兄さん冗談通じないタイプ?」

「面白くねーんだけど」


「怖ーい。ねえ、僕の話聞いてくれる?」


そんなもの聞くわけがない。

そのまま横を通り過ぎようとしたときだった。




「姉ちゃんに関することでも?」


意識するわけでもなく、ごく自然に足が止まった。


後ろを振り返ると、こうなることが分かっていたかのように、弟がすっと近くの公園を指差した。


「ね?」

少しだけ顔を傾けたその姿は、やはりあいつに似ていなかった。


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