不器用オオカミとひみつの同居生活。
*
「あ、お兄さん。今日は姉ちゃん一緒じゃないんだ」
「……弟」
「僕は陽向だよ。姉ちゃんと違って立派な名前があるからさ」
嫌みを物ともせず言ってのける目の前の顔は、たしかに茅森とは似ても似つかなかった。
あいつはこんなふうに胡散臭い顔はしない。
それでもどことなくパーツが似ており、姉弟というのは本当なのだろう。
俺の顔を見て、弟が肩をすくめた。
「やだなぁ、冗談だよ。もしかしてお兄さん冗談通じないタイプ?」
「面白くねーんだけど」
「怖ーい。ねえ、僕の話聞いてくれる?」
そんなもの聞くわけがない。
そのまま横を通り過ぎようとしたときだった。
「姉ちゃんに関することでも?」
意識するわけでもなく、ごく自然に足が止まった。
後ろを振り返ると、こうなることが分かっていたかのように、弟がすっと近くの公園を指差した。
「ね?」
少しだけ顔を傾けたその姿は、やはりあいつに似ていなかった。