不器用オオカミとひみつの同居生活。
もうすべてを話し終わったはずなのに、お母さんの心はちっとも軽そうじゃなかった。
むしろ今にも潰れてしまいそうなくらい、玄関に座りこんで泣いていた。
「どう接したら良いのかわからなかったの。自分が器用な人間じゃないことは自分が1番知ってる。何か声をかけるたびに憂を傷つけそうで、怖かった」
そんなの勝手だって思った。
だって、
「お母さん、話してくれなきゃわかんないよ。声に出してくれなきゃ、何一つ伝わらない」
もう責める気持ちはなかった。
……いや、最初からそんな気はなかったんだ。
ふと手に痛みを感じて、隣を見上げれば花平くんが眉をゆがめていた。
『私が何を言われても……花平くんにはただ隣で、見守っていてほしいんです』
ここに来る前に交わした約束。
それを今、花平くんは守ってくれている。
私の怒りを補ってくれているようで、それだけで充分だった。
花平くんが私のために怒ってくれるだけで、
風穴だらけの心にあたたかな風が吹き込んだ。