不器用オオカミとひみつの同居生活。
「ねえ憂、うちに帰ってこない?」
帰り際、お母さんにかけられた言葉。
また一緒に暮らさない?という意味が含まれていることに気付いて、頬を緩めた。
そう言ってくれることは嬉しかったけど、
「ごめんなさい。私、今すごく幸せなんだ。あのアパートで過ごしたいの」
「そう……また帰ってきてね。ここも憂の帰る家なんだから」
帰る家、か。
……その言葉はもう聞けないかと思ってたな。
また一滴の涙がまばたきと一緒にこぼれ落ちる。
頬を伝う雫は、さっきよりもずっと透明だった。
頭のうえに重みと、すこしのあたたかさを感じる。
「こいつ、寂しがりなんで。いつでも行ってやってください」
花平くんがお母さんに渡したのは、銀色の何か。
それはアパートの合鍵だった。
「うん、いつでも来て。住所はまたスマホで送るから」
お母さんは手のなかにある鍵を嬉しそうに見つめたあと、
「……待って、なんであなたが持ってるの?」