不器用オオカミとひみつの同居生活。
「ねぇ、これ間違えてない!?演劇の経験なんてないよ!」
すぐさま学級委員長に詰め寄るけど、彼女は「えー、でも」と人さし指を唇に当てた。
「茅森ちゃんが一番歌うまかったんだよね」
「歌?そういえばあの森のクマさん……」
白雪姫役を決めるにあたって、クラスの女の子は全員『森のクマさん』を歌った。
なんでその選曲なのかは知らないけど、とりあえず歌った。
「普通の劇じゃつまらないでしょ?」
「……待って、もしかして」
「ミュージカル劇になったから!よろしくね!」
ウインクしながらグッと親指を向けられる。
そんな、あまりにも無情だ。無情すぎる。
「あと茅森ちゃんふつーに可愛いし、大丈夫!」
大丈夫な要素が一つもない。
ここで助け船を出してくれるのは、王子さま役の周くん。
もし嫌なら全然降りてもいいんだよって言ってくれたんだけど……
断ったら周くんを拒んだことになってしまう。
引き受ける、辞退する。
その究極の二択が
ぐるぐる頭の中を回って────
「白雪姫役……つ、務めさせてイタダキマス」
わっと拍手が沸き起こった。
A高2年4組。
出し物:ミュージカル劇『白雪姫』
主演:加瀬沢周、茅森憂
これにて開幕──────