不器用オオカミとひみつの同居生活。
*
「茅森ちゃんスキップして!」
「してる!」
「嘘でしょ!それただの千鳥足だから!」
総監督……委員長の声が飛んでくる。
練習はかなりハードで、血反吐を吐くのは私のほうだった。
ミュージカルだから台詞と歌とダンスを覚えないといけなくて、一番苦労したのはダンス。
物語の都合上、激しいダンスはなくてゆったりしたものばかりだけど、指先まで気をつけないといけなくて大変だった。
とくに難しいのは、小人と白雪姫のダンスシーンと、一番最後にある王子さまとのワルツ。
スキップすら千鳥足と言われる運動音痴にこれはむごい。
全体練習が終わったあと、すうちゃんがお茶を差し入れてくれた。
「カヤ、お疲れさま!」
「グランピー……」
「役名で呼ぶなっ」
グランピーは怒りんぼの小人で、すうちゃんはなぜかグランピーに抜擢されたのだ。
「すう、どうせならもっと可愛い役がよかったー」
「白雪姫、代わろうか」
「いやよ。だって最後、加瀬沢とキスしないといけないじゃん」
「フリだけどね」
「すうへのちゅーはホントにしていいよ」
作中でダンスを踊っているとき、白雪姫がグランピーの頬にキスをする場面がある。
予行ではもちろん寸止めにしてきたけど、たった今許可が下ろされた。