不器用オオカミとひみつの同居生活。


「はいはい。余裕があったらするね、お姫さま」

「うむ。苦しゅうない」


満足げに胸を張るすうちゃんのほうがよっぽど姫らしかった。



「カヤは今日も居残り?」

「自主的にだよ。私がちゃんとしないと全部台無しになっちゃうでしょ」


「ひゅーかっこいー」

「もー、ほら寒くなる前に帰りなよ」



茶化してくるすうちゃんを追い払うようにして帰したあと、ひとりぼっちの教室で小さく息を吐いた。



「よし、やるかぁ」


最優先で完璧にしたいのは、王子さまとのワルツだった。

キスシーンを除けば一番の見せ場だし、クライマックスで失敗するわけにはいけない。


ワルツで使う曲をスマホで流して、最初から最後まで通して踊る。



「えと、こうだっけ……?」


1人だとどこに軸を置けばいいのかわからなくて余計ふらふらしてしまう。


それでも回数を重ねていくうちに慣れるだろう、と繰り返し練習していた。



そのうち辺りがうす暗くなってきて、もう一度、と意気込んだときだった。






『白雪姫。私と一緒に踊りましょう』


聞き覚えのある台詞が耳に届いたと思ったら手を取られ、そのまま曲がスタートしてしまった。


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