不器用オオカミとひみつの同居生活。
でもせっかくの好意を無下にすることはできなくて、はやる気持ちを押し殺しにっこりと笑った。
「先ほどは劇にお越しいただきありがとうございます」
「やっぱ可愛い声してるね。このあと暇?俺たちと一緒に回ろーよ」
「すみません、そのお気持ちはありがたいのですが……」
やんわりと断っても、向こうもなかなかにしつこい。
いつまでたっても拉致があかず、こまって視線をさまよわせたときだった。
「……あ」
廊下の先、人混みの向こうに花平くんがいた。
こっちに背中を向けているけど、あの後ろ姿は花平くんだ。
「あの、急いでいるのでこれで失礼します……!」
ぺこりと頭を下げて、花平くんの後を追う。
「は、花平くんっ……!」
あちこちで集客の声が飛び交っていて、私の声なんてかき消されてしまう。
もみくちゃになりながらも、もう一度「花平くん!」と名前を呼んだ。
ぴたりと花平くんが止まって一瞬だけこちらを向いた。
なんだか怒っているような顔。
そしてまた歩き出そうとするから、追いかけようとした矢先────