不器用オオカミとひみつの同居生活。
「おいって!まだ話は終わってねーだろ!」
「わっ……」
ドンッと衝撃が走った左肩。
まさか押すつもりはなかったんだろう、振り向きざまに見えたその人の顔はひどく青ざめていた。
なんで青ざめているかって?
それは……ぐらついた私の足元が、階段だったから。
ここで階段側に倒れるのがなんとも私らしくて、あまりの運のなさに他人事のように笑ってしまう。
それでも罪悪感を感じさせないために、私は気が付けばこう口走っていた。
「だいじょうぶです!」
いや、なにが大丈夫だ。ちっとも大丈夫じゃない。
最後の言葉がそれなんてあんまりだ。
いま思えば、私はいつもそればかり。
大丈夫って言葉がいつだって自分を守ってくれるような気がした。
全然、そんなことないのに。
魔法の言葉でも、便利な言葉でもない。
ただの自己暗示。
今さら気付いたってもう遅いのにな。
すでに足は地面についていなくて。
落ちゆく私の目には、すべてがスローモーションに見えた。
このままいけば頭からまっしぐら?
嘘でしょ。まだ死にたくないんですけど。
それでもどうすることもできないまま、ゆっくりと目をつぶる。
……もう少し、花平くんと一緒にいたかったな。
身体にかすかな温もりを感じた直後、私の意識はなくなった。