不器用オオカミとひみつの同居生活。
忘れた記憶

幸せにできるのは








よくある話だ。


代々続く医者家系の親の間に生まれたというだけで、別に珍しいことじゃない。



花平(とおる)

旧姓を五十渡(いわたり)徹。


それが俺の親父であり、

五十渡病院の優秀な外科医、

そして院長の名前だった。



本来ならここで親父と花平美里の馴れ初めを話すべきだろうが、あいにく伝えられるようなことはなにもない。


親父がどうやって花平美里と出会ったのか、

どのような時を過ごしたのか、

なぜ名字を花平にしたのか。


何一つとして知らなかった。



きっと親父からすれば教える価値もなかったのだろう。


知っているのは、俺が花平美里と瓜二つの顔だということ。

親父は子供を望んでいなかったこと。


そして、風邪すら引いたことのなかった花平美里が、俺を産んだときにあっけなく死んだことだ。


< 334 / 403 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop