不器用オオカミとひみつの同居生活。
忘れた記憶
幸せにできるのは
*
よくある話だ。
代々続く医者家系の親の間に生まれたというだけで、別に珍しいことじゃない。
花平徹。
旧姓を五十渡徹。
それが俺の親父であり、
五十渡病院の優秀な外科医、
そして院長の名前だった。
本来ならここで親父と花平美里の馴れ初めを話すべきだろうが、あいにく伝えられるようなことはなにもない。
親父がどうやって花平美里と出会ったのか、
どのような時を過ごしたのか、
なぜ名字を花平にしたのか。
何一つとして知らなかった。
きっと親父からすれば教える価値もなかったのだろう。
知っているのは、俺が花平美里と瓜二つの顔だということ。
親父は子供を望んでいなかったこと。
そして、風邪すら引いたことのなかった花平美里が、俺を産んだときにあっけなく死んだことだ。