不器用オオカミとひみつの同居生活。
「……ただの箱、か」
二度三度、頭を振った。
それくらいで離れないことなど承知の上。
何度離れようと思い、何度失敗しただろう。
……ちょうどいい機会だった。
俺よりも加瀬沢のほうが、あいつを幸せにすることができる。
泣かせるなどもってのほかだ。
「おいお前、花平だろ。ちょっと付き合えって。なぁ?」
道を間違えたのは親父か?
俺を生んだ花平美里か?
いや……俺か。
自分の歩く道はここだと気付いても胸の一つさえ痛みやしない。
道中、掴まれた腕を振り払うこともなく、ポキリと指の関節を鳴らした。
「ああ、気の済むまで付き合ってやるよ」
俺の人生は一行で言い表すことができる。
生みの親を殺し、道を踏み外した。
珍しくもなんともない、ただそれだけの話。