不器用オオカミとひみつの同居生活。
「ずっとそのことを気にして……?」
「気になりすぎて夜も寝れなかったよ。院長と彼……綾人くんの仲が悪いことは知ってたのに」
仲が悪いということにはそこまで驚かなかった。
なんとなく、そうなんだろうなとは思っていたから。
私が驚いたのは……ここ、五十渡病院の院長が花平くんのお父さんだったということ。
花平くんが病院に行きたがらない理由は、もしかしてお父さんの病院だったからなのかな。
「刈谷先生」
「ん?」
「美里さんという方が、花平くんのお母さんなんですか?」
あの日、刈谷先生が言った“美里”という名前。
「……そう、だね。うん。彼女は最後まで良い母親だったよ」
過去形。それに最後までという言葉。
それが何を意味しているのか分かってしまったけど、聞いてしまったことを後悔してももう遅かった。
刈谷先生は天井を見上げた。
もしかしたらそのずっと先にある世界に目を向けていたのかもしれない。
「とても綺麗な人だった。流れるような黒髪に、まるで宝石のような瞳。美しくて、強くて、朗らかな人だったな」