不器用オオカミとひみつの同居生活。
振り返った男の人は、さっきまでとは違う鋭い眼差しだった。
私の顔をじっと見て……
訝しむような視線が一瞬だけ緩まる。
「……君は、刈谷のところの」
「あ、と、突然すみません。私は────」
「たしかに私は花平だが。あの恥知らずは今どこにいる?」
「……恥知らず?」
それまでの思考が一気に吹き飛んでいった。
自己紹介しなきゃ、とか。この病院にお世話になってることを言わなきゃ、とか。
そういうの全部。
頭の中が真っ白になる。
「そうだ」
うなずいた男の人……花平くんのお父さんの顔はまるで能面のようだった。
「髪を染め、喧嘩に明け暮れ、家に帰ってこない。これを恥知らずと言わずして何と言うんだ?」
私の中で、ぱっと浮かび上がった花平くんの姿。
たしかに花平くんは髪を金に染めている。
喧嘩だって日常茶飯事。
ポストに入っていた合鍵だってそうだ。
……でも。
「あいつの人生はもう終わっている。私の手には負えない」
私が言われたわけじゃないのに、その言葉はずぶりと胸に刺さる。
それくらい攻撃的な言葉を、いま、この人は平気で言ってのけた。
信じられなくて、次の言葉が継げなかった。