不器用オオカミとひみつの同居生活。
「気にするな。やれ」
男の声に、鉄パイプを持った一人が近寄っていく。……のに。
花平くんは動かなくて、ついに目の前でそれが振り上げられた
────次の瞬間だった。
「誰が言いなりになるだって?」
鈍い打撃音。
金属で打ったようなものではなかった。
すこし離れたところから、私のすぐ横まで吹っ飛んできたその人は……
この場にいる全員の予想を裏切るものだった。
「なっ……!?」
何が起こったのかわからないんだろう、まるで時が止まったように周りの動きがなくなる。
でも私は、私だけは。
こうなることをわかっていた。
考える余裕なんてない。
首にあてられた刃先もすこし緩んでいるうちに、と。
上着のポケットに手を突っ込み、手に触れたものを取り出す。
「ごめんなさい!」
空いているほうの腕で自分の顔を隠しながら、その突起部分をぐっと押し込んだ。
すぐ近くでぷしゅっと噴出したそれ、と同時に悲鳴があがる。
「ぎゃああ!め、目がっ……!!」
「えっと、えっと……こうして、こう!」
「いでででで!」
先輩から教わった護身術もかなり有効で、男の腕から逃れることができた。
それでも手当たり次第に振られたナイフの切っ先が頬をかすめて。