不器用オオカミとひみつの同居生活。
「バカ、こっち来い茅森!」
どれだけ離れていたってその声は一番に私の元へ届く。
花平くんに“お前”って呼ばれるのは、それほどいやじゃなかった。
だってその言葉にはなんの蔑みも威圧感も含まれてないから。
それでもやっぱり、名前を呼ばれたときに胸の中に広がる想いは抑えることができない。
駆け寄ろうとした私に、ようやく我に返った相手の人たちもそうはさせまいと躍起になる。
でも、ふたたび捕まることはなかった。
「ってーな、誰だよ俺の足踏んだの!」
「知らねーよ!つーかてめぇさっきから邪魔なんだよ!」
……内輪揉めだ。
そりゃあ、こんなせまい場所で予想外のことが起こったらパニックになるよね。
チームワークのなさにすこしだけ呆れてしまいつつ、足だけは止めなかった。
目指す場所はただひとつ。