不器用オオカミとひみつの同居生活。
「……もし」
息を吸うと凍るように冷たい空気が肺に入ってくる。
「もし、それでもどこにも行かないつもりなら。
あなたに行くところがないのなら。
……もう一度、うちに来ませんか。
──────花平くん」
彼が顔を上げた。
今度は新しい傷も見受けられず、
ただ鋭い眼光がこちらに向けられる。
「俺のこと知ってんの」
「同じA高だとは思ってたんですけどね」
それは最初会ったときから気付いていた。
彼が着ていたのがうちの制服だったから。
まさかテストの順位で一桁に食い込むような人だとは思わなかったけど。
合わせるようにしゃがみ込めば、
吸い込まれるような瞳と同じ高さになる。
「私は茅森」
自分のしていたマフラーを首からほどいて、それを目の前の彼に巻いていく。
途中で触れた頬は
まるで氷のように冷たくなっていた。