不器用オオカミとひみつの同居生活。


一瞬、はっとした茅森はすぐに顔を歪めた。



「……はは、ひっどい」


そんな言葉を残し、するりと緩まった手が離れていく。

うつむいた顔から表情は読み取れないが、泣いているのかもしれない。


無意識に伸ばそうとした手を、意識的におろした。



「悪かったな、今まで迷惑かけて。……幸せになれよ」


本心だった。

かすかに残った正義心でも、同情でもなく。


何よりも、誰よりも、心からそう思った。



「ひどいですね、私。最悪だ」


もう振り返らないつもりだったのに、




「花平くん」


どん、と振り返った瞬間、拳が叩きつけられる。

ちょうど心臓の辺りだった。


そこまで強くはなかったが、まるで痺れるような振動が広がっていく。



「花平くん」


もう一度、呼ばれる。



……全然泣いてねーじゃん。


真っすぐにこちらを見上げる茅森は、すこし怒っているようにもみえた。



「気づいてますか」


「……何に」


「さっきから……ううん、ずっと。花平くんは他人のことばかりで、自分のことは一切考えてない。自分の人生なのに、他人のために生きてる」


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