不器用オオカミとひみつの同居生活。
「……綾人」
「ん?」
「もし男だったら、綾人という名前はどうだろう」
「ほーう、その心は?」
間髪入れずにエアーマイクを向けてくる彼女は心なしか嬉しそうにしていた。
「君のことだから、綾の由来は人との繋がりを大切にしてほしい……で、あってるか?」
「ドンピシャ。君のことだからはよけいだけど。じゃなくて、なんで人なの?」
俺の歩んできた半生は、けっして穏やかなものではなかった。
蹴落とし蹴落とされの競争世界。
誰かに手を差し伸べるなどもってのほかで、それこそ足を止めれば最後だと常に気を張っていた。
でも……いや、だからこそか。
「……もし、困っている人がいたなら。
その人の支えになれるような人になってほしい」
自分ができなかったことを子供に求めるのかと言われれば、たしかに無責任かもしれない。
それでも自分のようにはなってほしくないという思いが心のどこかにあって、それは高学歴でも医者になることでもなく。
ただ、多くの人に囲まれ、
愛される、誰かに必要とされる人に
────……なりたかった。