不器用オオカミとひみつの同居生活。


目の前で黙々と食べていた花平くんがふと箸を止めてこちらを見ていた。



「はい?」

「って、どういう字」


今までずっと黙り込んでいたと思ったら、そんなことを考えていたのだろうか。



「えっと。チガヤに、自然のほうの森です」


チガヤの茅ではわからない人も多く、茅ヶ崎の茅だと説明するときもある。


だけど花平くんはすぐにああ、と理解したように食事を再開した。




「……何、笑ってんだよ」

「いや……」


みそ汁のお椀で口もとを隠していたのに、めざとく見つかってしまった。



『もう一度、うちに来ませんか』


この言葉をすうちゃんに聞かれてたら、絶対「なんでまた誘ってんの!?バカなの!?」って言われてただろうな。


たしかに私はバカだ。

1度目だけじゃなく、2度目までも考えなしにそんなことを口走っていたんだから。


彼に執着しているわけではない。

とつぜんいなくなった彼を町中さがしまわったわけでもなく、嘆き悲しんだわけでもない。


きっとコンビニの前にいなかったら、二度と会うこともなかったと思う。


だからこうして、2回もついてきてくれた花平くんには正直びっくりした。


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