不器用オオカミとひみつの同居生活。
しゃがんで、そっと顔を見つめる。
「あの、大丈夫ですか?」
閉じられたまぶたは動く気配もなかった。
まるでおとぎ話から出てきた王子様みたい。
「どこから来ましたか?お名前は言えますか?」
私の問いかけにその人はすっと反応して、アイドル顔負けの魅力的な笑みを浮かべた。
そして……
「こんばんはお嬢さん。助けてくれてありがとう。僕はとある王国の第一皇子だ」
……とか言われたらどうしよう。
困る。すごく困る。
そうなったらタクシーの人にどう説明したらいいかわからない。
まぁそんなファンタジー要素はもちろん
一切なくて、実際はいくら話しかけても返事すらない。
「お客様大丈夫ですか?私の声聞こえますか?」
やがて目が慣れてきて、その姿をあらためて捉える。
スーツだと思っていたのは高校のブレザーだった。
はだけたシャツからは素肌がのぞいている。
その肌は傷だらけで、ところどころから血が出ていた。