不器用オオカミとひみつの同居生活。
びゅうっと一際冷たい風が私たちの間を通り抜けた。
「──────うちに来ますか?」
マフラーに隠れていた口から出た言葉は、白い霧となる前に小さく宙に消えた。
聞こえたかも定かではない。
ぴくり。はじめて反応があった。
ちゃんと聞こえていた。
さらに……
不完全燃焼のそれが、どうやらからくり人形の合い言葉だったらしい。
ゆっくりと顔があがった。
さらりと流れる金色の束。
すっと持ち上げられた薄い二重まぶた。
冬の夜空のように澄んだ瞳が、
まっすぐに私の姿を捉えた。
「行く」
感情を感じさせない低い声が、白い息とともに宵闇に溶けていった。
澄んでいるようでどこか濁っている、
そんな複雑で美しい瞳の中には
私の顔だけがぽつんと浮かんでいたのだった。