前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
数日後、弟さんに挨拶をするため、勤務を終えた久夜さんと彼が暮らす川崎市のマンションへやってきた。七階建てのそこは、単身者向けらしくこぢんまりとしている。
『一応連絡はしておいたが、待っているかどうかはわからない』と久夜さんは言っていた。マンションの脇に車を一時停止させて彼が住んでいるという五階の角部屋を見上げれば、明かりが灯っているのが見える。
「いるみたいだな。行こう」
「はい」
若干緊張しながら車を降り、久夜さんのあとに続いた。
弟さんの部屋の前まで来てインターホンを押すと、しばらくして足音が聞こえてくる。いよいよご対面だとそわそわするも、背筋を伸ばして待つ。
そうして開いたドアの向こうから現れた人物を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。
──よく似ているのだ。十年前、私に苦い過去を作った彼に。