前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 短く明るい色だった髪は暗く長めになり、筋肉がついたのか身体がひと回り大きくなった気がする。

 綺麗な顔立ちはそのままだが、目つきの悪さはあまり感じない。……いや、彼も私に気づいて目を見張っているせいかもしれないが。

 信じられない。こんなに喜ばしくない運命の巡り合わせがあるだろうか。

 久夜さんの弟さんが、先輩だったなんて──。


「こんばんは。忙しいところ悪いな」


 視線を逸らせずに固まる私たちに気づいていない久夜さんは、穏やかな口調で紹介を始める。


「弟の重南 (かい)だ。で、この子が俺の嫁さん」


 やはり人違いではなかった。名前は〝かい〟だと聞いていたが名字までは知らなかったから、まさか先輩だとは思いもしなかった。顔もあまり似ていないし。

 心臓がドクドクとわずらわしい音を立てるのを感じながら、なんとか平静を装って挨拶をする。


「……い、伊吹です。よろしくお願いします……」


 頭を下げたら、それきり目を合わせられなくなった。彼からはなんの返事もなく、久夜さんの声だけが耳に届く。
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