前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
翌日も、先輩司書である末永さんと一緒に出勤だ。ふたりでブックコートやラベルを貼る作業をしていると、ふんわりと波打つ長い髪をサイドで結んだ彼女が、なにげなく言う。
「今日は梨乃ちゃん来ないわね。桃真くんに手紙渡せたかしら」
末永さんもあれから少しして休憩から戻ってきて、女子たちが手紙を書いていたことを知っている。そういえば、どうなっただろうか。
「梨乃ちゃん、今日は検査だって言ってたから来ないかもしれませんね。その後の話を聞きたいけど」
「うん。いいわよね~甘酸っぱくて。医者妻の友達からは、患者のクレームで損害賠償を請求されただの、看護師と不倫されただの、ゲスな話しか聞かないからあの子たちに癒されたいわ」
末永さんはほくろが色っぽい口元を緩ませて、あっけらかんと笑った。私はその医者妻の話にぴくりと反応してしまう。
昨日、明神先生も『外科医の嫁は大変だって愚痴も聞く』と言っていたし、やはり本当なんだろうか。