前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
「お医者さんの奥様って、そんなに苦労されてるんですか?」
「んー、そうでもないわよ。生活水準は高いし、旦那は留守がちだから自由な時間が多いし、羽を伸ばすには最高だって」
「ああ……なるほど」


 そうか、そういう意味では幸せなのか。でも、いくらお金や自由があっても、揺らがない愛がなければ虚しくなってしまいそう。

 微妙な顔で頷きながら考えていると、再び彼の言葉が脳裏を過ぎる。


『俺は奥さんを愛すのもおろそかにしないよ』


 明神先生なら有言実行するって信じたい。……って、私が奥さんにしてもらえるはずがないのに、なにを考えているんだか。

 自分に呆れていると、末永さんが綺麗な顔を私に近づけてコソッと囁く。


(さかえ)先生が伊吹ちゃんのこと気に入ってるって噂よ。お医者様はどうなのか、付き合って確かめてみたら?」


 唐突な発言に、私はギョッとして目を見開いた。

 栄先生は、明神先生と同じ心臓外科に勤務している三十路のドクターだ。彼もこの先ますます有望視されている人で、優しい性格と整った容姿から〝白馬に跨った王子様〟ならぬ〝白衣を纏った王子様〟と陰で呼ばれている。
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