前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 あのときと動揺、息をゆっくり吐くことを意識して呼吸を整える。情けなさで一杯で、泣きたくなるのを俯いて堪えていたとき、部屋のドアがコンコンとノックされた。

 うっすら涙が滲んだ目元を拭い、返事ができないのでこちらからドアを開けると、妙に慌てた様子の母がいる。


「伊吹、ごめんね! これ、郵便物の間に挟まってて気づかなかったんだけど……先生からじゃないかしら?」


 母から差し出されたものは、折りたたまれた一枚の紙。彼女の言う通り〝伊吹へ〟と書かれた字は久夜さんのものだとすぐに確信し、ドキリと胸が鳴った。

 久夜さん、ここへ来たの? 封筒にも入っていないし、直接ポストに入れたとしか考えられない。


「先生、昨日伊吹に会いに来ていたって。私もさっき聞いたのよ。大地が追い返しちゃったみたいだけど、あの子も伊吹のためを思ってそうしたんだろうから、許してやってちょうだい」


 眉を下げる母の話を聞いて、私は驚くと同時に納得した。昨日、私が居眠りして起きたときに来ていた誰かは久夜さんだったのだ。

 神妙な顔をする私に、母は優しく微笑みかける。
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