前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
「私は、先生なら伊吹の抱えているもの全部受け止めてくれると思うわよ」


 ……剥がれ落ちそうになったピースを、見失いかけていた久夜さんを信じる強さを、少しだけ元に戻してもらえた気がした。

 母から手元の折りたたまれた紙へと視線を落とす。ひと呼吸置いてゆっくり開いてみれば、それは私がマンションに置いてきた便箋だった。

 いつもと同様に私の文の下に返事が書かれているが、意外なメッセージに目を見張る。


〝君に渡しそびれたものがある。受け取りに来てほしい〟


 渡しそびれたもの?

 それってなんだろう、と首を傾げた直後、玄関のほうから大地らしき声が聞こえてくる。母は怪訝そうに「なんだか騒がしいわね」と言って階段を降りていった。

 私はそれどころではなく、部屋に戻りつつまだ続きがあるメッセージに再び目を落とす。


〝それが無理だとしても、俺が必ず君を迎えに行く〟


 彼の情熱が伝わってくるようなひとことに心が揺らされた、そのときだ。


「伊吹!」


 窓の外から名前を呼ばれた気がして顔を上げる。空耳かと思ったのもつかの間、もう一度呼ぶ声が聞こえて、私は慌てて窓に近寄った。

 そして大きく目を見開く。玄関の外に、大地と押し問答している様子の久夜さんがいたから。
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