前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
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デジャヴュのように、病院の屋上庭園で伊吹とふたりになった黄昏時。
彼女が櫂との仲を修復できたとわかり、俺は胸を撫で下ろしながらも完全には安堵できずにいた。
それはやはり、彼女の声が戻らないから。
櫂との問題も解決し、確実に彼女の心を病むものはなくなってきているはずなのに、いまだに症状が治らないのでむしろ不安が増していたのだ。
俺は医者なのに、なにもしてやれない自分が不甲斐なく、やりきれなくて仕方ない。夫としても彼女を支えてやれているのか、本当に幸せだと感じてもらえているのか、自信が揺らぐ。
研修医になりたての頃と似た無力感を覚えるが、自分より大切な人の問題である分、余計に葛藤が大きかった。
しかし、そんな本音をこぼしたらまた気にさせてしまうので、隠したまま平静な顔で彼女と別れる。
とにかく自分にできるサポートをするしかないと気持ちを奮い立たせた、そのときだった。
「──久夜さん!」
……え? 伊吹の、声?
足を止め、驚きに満ちた顔で振り返れば、自分でも信じられないといった様子の彼女が喉のあたりを押さえている。