前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 声が出せたのだと瞬時に実感できず動けなくなる俺に、伊吹は凛とした瞳を一直線に向け、息を吸い込んだ。


「私は本当に幸せです。欠点も含めて認めてくれるあなたがいるから。いつだって久夜さんが私を強くしてくれているんです」


 整った眉尻が下がり、綺麗な瞳がゆらゆらと揺れ始める。


「だから……悲しい顔しないで」


 ……ああ、俺が苦しいと伊吹も苦しいのだ。とっくに他人ではなくなっていたのだから。こんな単純なことに気づかなかったなんて。

 必死に本心を伝えようとした気持ちが声を出させたように思え、堪らなくなって彼女のもとへ早足で引き返し、華奢な身体を抱きしめた。


「……正直不安だったんだ。ただ愛しているだけじゃ、なにも君のためになっていないんじゃないかって」


 腕の中でぶんぶんと首を横に振る彼女を抱きしめる力を強め、「本当によかった」と安堵のひとことを漏らした。

 少し身体を離し、頬に伝った雫を親指で拭いながらねだる。


「君の声、もっと聞かせて」


 伊吹は濡れた宝石のように綺麗な瞳を細め、精一杯口角を上げる。
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