前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
「好きです、久夜さん。十年前からずっと、大好き」


 感情が溢れる声で何度も紡がれる告白は、熱く胸に沁み込んでいく。俺たちは時間の許す限り愛を囁き、唇を重ね合った。


 * * *

 ……そう、十年前。あのとき君が抱いていた気持ちを、俺は知っていたよ。

 伊吹が退院したあと、花壇にひっそりと紛れていた手紙を見つけた俺は、名前がなくても誰が書いたものかすぐにわかった。

 当時は、思春期特有の憧れに似た軽い恋心なんだろうと、微笑ましく思っていた。とはいえ彼女が一生懸命伝えようとしたであろう手紙を捨てたりなどはできず、持ち帰って今も引き出しの中に眠っている。

 それがまさか、長い年月が経った今も好意を寄せられ、本意ではなかったとはいえ求婚されるとは。

〝結婚してください〟とだけ書かれた手紙を見たとき、ガラにもなく胸が高鳴った。彼女を手に入れるなら今しかないと、婚姻届まで用意した自分の必死さは滑稽すぎるので内緒にしているが。
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