前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 あまりにも緊張感のないその様子に、私の気持ちも解れていく。

 ……先生、私が話下手なのをわかっていて、その上でちゃんと話を聞こうとしているんだ。彼の誠実さに向き合わなくちゃ。

 私も自分の椅子に座り、話したいことを頭の中で整理する。順序立てて伝えるシミュレーションをしているとだいぶ落ち着いてきて、ようやく口を開いた。

 祖母がエンディングノートを書いていたこと、できるならその願いを叶えてあげたいことをゆっくり説明した。問診するみたいにこちらを見てしっかり耳を傾けていた先生は、納得して頷く。


「なるほど。トキさんのために花嫁姿を見せてあげたい、と。あれは冗談じゃなかったんだな」
「はい……」
「どうして俺を選んだの?」


 唐突な核心を突く質問に、心臓がドキンと跳ね上がる。どうしよう……これは声にできそうにない。

 恥ずかしさが勝ってしまう自分に情けなさを感じながらも、メモ帳とペンを取り出し、さらさらと文字を綴る。私は顔を俯かせたまま、不思議そうにしている彼にメモ帳を差し出した。
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