前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
〝明神先生しか考えられないから〟


 ざっくりとしたひとことをしばし見つめていた先生は、アーモンド型の瞳を私に向ける。


「好き? 俺のこと」


 ほのかに甘く感じる声でさらに直球な質問を投げられて、私はまた赤面した。

 す……好きです、もちろん。求婚する理由なんて、それ以外にありません。

 でも、こればっかりは文字にするのすらためらわれる。だって……フラれるのは怖い。失恋の経験はないが、自分の想いが届かない辛さくらい想像できる。そうなる前に逃げるのも、私の悪い癖だ。

 過去に一度だけ、告白しようとしたときがあったことを一瞬思い出す。今回も口をつぐんだままでいると、「急に聞かれても困るか」という先生の呟きで、少し緊張が解ける。

 よかった、深追いされなくて……と、ホッとしたのはつかの間だった。


「いいよ。結婚しよう」


 遊びの約束をするくらいの軽い調子で、衝撃的な言葉が放たれた。


「……え?」


 間抜けな顔を上げれば、至極平静な表情でこちらを見つめる彼がいる。
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